JR東日本FY25/3-1Qの結果と今後の展望

今回は東日本旅客鉄道(株)【9020】を見ていきます。

本日、当社より「2025年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」が発表されました。

企業概要

概要

東日本旅客鉄道(以下、JR東日本)は、誰もが知る鉄道最大手企業です。
国鉄分割民営化に伴い発足したJRグループの旅客鉄道会社の一つであり、JR東日本という通称で親しまれています。

日本国内では東北・関東・甲信越地方を地盤としており、鉄道運営のほか、不動産関連やエキナカ事業等も展開しています。また、海外では鉄道やホテルなどの事業展開を行っています。

基本情報

特色【特色】鉄道最大手。首都圏・東日本が地盤。不動産賃貸や駅ナカ物販事業が成長。「Suica」を育成
連結事業【連結事業】運輸68(9)、流通・サービス14(13)、不動産・ホテル15(23)、他3(9)(2024.3)
本社所在地〒151-8578 東京都渋谷区代々木2-2-2
電話番号03-5334-1111
業種分類陸運業
英文社名East Japan Railway Company
代表者名喜勢 陽一
設立年月日1987年4月1日
市場名東証プライム
上場年月日1993年10月26日
決算3月末日
単元株数100株
従業員数(単独)39,843人
従業員数(連結)68,769人
平均年齢38.5歳
平均年収7,250千円
Yahooファイナンスより引用

各種指標

Yahooファイナンスより引用

  • 終値(7/31):2,825円
  • 時価総額:3,204,714百万円
  • 発行済株式数:1,134,412,200株
  • 配当利回り(会社予想):1.84%
  • 1株配当(会社予想):52.00円
  • PER(会社予想):(連)15.22倍
  • PBR(実績):(連)1.18倍
  • EPS(会社予想):(連)185.62
  • BPS(実績):(連)2,402.34
  • ROE(実績):(連)7.57%
  • 自己資本比率(実績):(連)27.8%
  • 最低購入代金:282,500
  • 単元株数:100株
  • 年初来高値:3,108
  • 年初来安値:2,505

業界動向

近年の動向

鉄道業界は新型コロナ5類移行に伴って、訪日外国人観光客の増加も追い風に、新幹線を中心として旅客需要の回復が続いています。

一方で、リモートワークやオンライン会議の定着により、通勤定期や出張等のビジネス利用は鈍く、コロナ禍前の水準には戻らないという見方が多くあります。

こうした中で、鉄道各社は採算改善に向けた料金体系の改訂に取り組んでおり、運賃値上げだけでなく、JR東日本の「オフピーク定期券」など変動運賃制の導入も進んでいます。

業界各社

鉄道業界は、JRグループ(旧国鉄)・大手私鉄・地方交通・公営で構成され、輸送人員においては旧国鉄と大手私鉄が大きなシェアを占めています。

JRグループは、JR東日本を筆頭に、JR東海、JR西日本、JR四国、JR北海道、JR九州、JR貨物で構成されます。

また、大手私鉄は大きく関東圏と関西圏に分けられ、関東圏は東急電鉄、東武鉄道、小田急電鉄、京王電鉄、京浜急行電鉄、京成電鉄、相鉄鉄道、西武鉄道、東京地下鉄(東京メトロ)、関西圏では近畿日本鉄道、阪急電鉄、阪神電気鉄道、京阪電気鉄道、南海電気鉄道の存在感が高いです。

このほか、中部地方や九州地方で名古屋鉄道、西日本鉄道が知られています。

ちなみに、ここで挙げた私鉄16社は総じて「大手私鉄16社」や「大手民鉄16社」などと呼ばれます。

各社とも依然として旅客運輸収入はコロナ禍前の水準に戻らず、中長期的には沿線人口縮小が避けられないため、不動産関連事業をはじめとした非鉄道事業の育成を進めています。

業績と発表内容

(注意)当社は、2024年4月1日付で普通株式1株につき3株の割合で分割を行っています。都合上、分割を考慮したものとそうでないものがありますので注意してください。

過去動向と通期決算

決算期売上高営業利益経常利益当期利益一株利益(円)一株配当(円)
2021/3連1,764,584-520,358-579,798-577,900100
2022/3連1,978,967-153,938-179,501-94,948100
2023/3連2,405,538140,628110,91099,232263.38100
2024/3連2,730,118345,161296,631196,449521.46140
2025/3連 (予)2,852,000370,000315,000210,000556.86156
単位:百万円、一株利益・一株配当は株式分割の数値

2021年3月期はコロナの影響により鉄道利用者数が大幅に減少したことで、民営化後初の連結業績最終赤字となり、大きなニュースとなったことは記憶に新しいかと思われます。

その後は、2022年に東北新幹線脱線などのニュースがあったものの、順調に利用者数が回復し、2023年3月期には黒字化を達成。

2024年3月期連結業績は、鉄道やエキナカ店舗利用の増加などが寄与し、収益ともにコロナの影響がほとんど見られない2020年3月期と同水準にまで回復しました。

2025年3月期の会社予想は、売上高は4.5%増の2兆8,520億円、当期純利益は6.9%増の2,100万円となっています。

2025年3月期第1四半期の連結業績(累計)

売上高営業利益経常利益純利益一株利益(円)
2025年3月期第1四半期686,670
(9.1%)
120,530
(50.3%)
106,469
(57.8%)
73,300
(63.6%)
64.79
2023年3月期第1四半期629,472
(12.9%)
80,176
(99.0%)
67,490
(159.7%)
44,813
(136.8%)
39.66
2025年3月期会社通期予想2,852,000
(4.5%)
2,852,000
(7.2%)
315,000
(6.2%)
210,000
(6.9%)
185.62
単位:百万円、%表示は対前年同期増減率、一株利益は株式分割の数値

利益面でかなり好調な出だしを切っています。
売上高は会社通期予想に対して進捗率24%とまずまずですが、四半期純利益は会社通期予想当期純利益に対して進捗率35%近くにのぼり、凄まじい伸び率です。

これは営業利益率が大きく改善したことが主要因であり、営業収益(売上高のことです)の伸展に対して、営業費用(原価および販管費のことです)がほとんど変わっていないため、結果的に純利益をはじめとする全ての利益の大幅増加に繋がっています。

2025年3月期第1四半期のセグメント別業績

同日発表された決算説明資料によれば、2025年3月期第1四半期のセグメント別業績は次の通りです。

運輸事業

  • 営業収益:4,650億円(前年比+289億円、+6.6%)
  • 営業利益:686億円(前年比+251億円、+57.6%)
  • EBITDA:1,403億円(前年比+271億円、+24.0%)

主な要因:

  • 鉄道運輸収入の増加、新幹線および在来線の利用増
  • 北陸新幹線敦賀延伸開業による増収
  • 高速バスの利用増加

流通・サービス事業

  • 営業収益:908億円(前年比+65億円、+7.8%)
  • 営業利益:130億円(前年比+25億円、+24.7%)
  • EBITDA:174億円(前年比+30億円、+21.5%)

主な要因:

  • 鉄道利用増加に伴うエキナカ店舗の売上増
  • 交通広告の売上増加
  • 海外ホテル(メトロポリタン台北)の利用増

不動産・ホテル事業

  • 営業収益:1,097億円(前年比+202億円、+22.6%)
  • 営業利益:339億円(前年比+121億円、+55.8%)
  • EBITDA:476億円(前年比+122億円、+34.6%)

主な要因:

  • 不動産販売やSC・ホテルの売上増加
  • マネジメント物件の増加

その他

  • 営業収益:209億円(前年比+14億円、+7.3%)
  • 営業利益:41億円(前年比+1億円、+2.9%)
  • EBITDA:120億円(前年比+2億円、+1.9%)

主な要因:

  • クレジットカード取扱高の増加
  • シンガポール軌道工事・保守会社GATESの平年度化
  • 風力発電の開発報酬の増加

全てのセグメントにおいて増収増益であり、増収に伴って全ての利益が増益しています。

さらに、運輸事業、流通・サービス事業、不動産・ホテル事業の主要3事業すべてにおいて、営業利益率が大きく改善しています。

とりわけ運輸事業においては、平日の新幹線断面輸送量が4~6月にかけて安定的に対前年実績で10%増加しており、ビジネス利用者数増加をうまく捉えられている印象です。
※新幹線利用者の大半はビジネスパーソンといわれています。

今後の見通し

当社の計画

決算説明資料には、「2028年3月期目標までのプロセス」と題して、以下のような参考資料が掲載されています。(一部抜粋)

2024.3実績2025.3業績予想2026.3見通し2027.3見通し2028.3目標
営業収益27,30128,52030,03031,25032,760
 運輸18,51519,35019,68020,04020,190
 流通・サービス3,6933,8704,6304,9706,540
 不動産・ホテル4,1814,2904,5604,9705,070
 その他9101,0101,1601,260960
営業利益3,4513,7003,8103,9104,100
 運輸1,6181,8801,8401,7301,780
 流通・サービス526610660700800
 不動産・ホテル1,1041,0101,1001,2201,240
 その他219220230280300
営業外損益△485△550
経常利益2,9663,150
特別損益△225△100
親会社株主に帰属する当期純利益1,9642,100
EBITDA7,3737,730
ROA3.6%3.7%
ROA (R=EBITDA)7.7%7.8%
(単位:億円)

計画に対する意見

今回発表の第1四半期決算短信をふまえ、営業収益の増加に加えて、営業利益率の大幅改善され、その主因は営業費用が横ばいだったことを確認しました。

しかし、あくまで営業収益は計画通りといって差し支えなく、コスト増加がなかったために結果として利益面で予想に対する進捗がかなり良かったに過ぎません。

実は昨年以前の決算短信を見ても、当社の費用予想はかなり保守的であり、特に純利益に至っては、第1四半期時点で進捗率30%程度はよく見られる数字でした。

実際問題として、鉄道事業は固定費の比率が圧倒的に高いといわれており、これは裏を返せば変動費が低いことを意味しますから、旅客運輸収入の増加を見込むのであれば、相応の増益も見積もるべきだと考えられます。

この点において、当社計画は2028年3月期目標までの営業利益率が13%弱と一貫しており(むしろ運輸だけで見れば10%弱から9%弱に落ちています)、本来上がるべき数字をあえて落とすことで、計画を達成しやすく(かなり保守的な予想開示を)しているようにも捉えられます。

展望と評価

当社計画に対する疑問こそあるものの、全体として増収増益が達成できていることは事実です。

主要事業たる鉄道事業は、インバウンドをはじめ利用者数増加が基調的に見込まれ、非鉄事業に関しても、エキナカ店舗は鉄道利用者増加に相関し、不動産事業も躍進していますので、ほとんど計画通りに営業収益が伸びていくと考えられます。

数値的にも、決算説明資料の各セグメントにおける実績と計画を見ると、まだ第1四半期時点ではありますが、ほとんどの収益がピタリと計画通りに達成されています。

ここで、先ほど指摘した通り、鉄道事業は変動費率が低いため、増収は大幅な増益に直結します。

したがって、将来的な利益は当社計画を上回る可能性がかなり高いと考えられます。

例えば、2024年3月期の営業費用をそのまま適用した場合、2025年3月期の当社営業収益予想2億8,520億円に対して、営業利益は4,670億円、当期純利益は3,070億円(当社予想は営業利益3,700億円、当期純利益2,100億円)と見積もることが可能です。

実際には事業別で固定費率は異なりますし、営業費用もある程度は増加するはずですので、上記の単純試算からは低くなるはずですが、現在のペースを維持できれば営業利益4,000億円を超えるのは間違いないのではないかと思われます。

また同様に、2026年以降も利益面は当社計画を超えることが予想されます。

まとめ

ある程度予定調和だったようにも思われる好決算ですが、全セグメントにおいて計画通りに収入を得ながら増収増益を達成した点は、会社として評価されて然るべきでしょう。

2025年3月期の一株利益(EPS)は、会社業績予想で185.62円とされていますが、実際にはこれより高くなるはずです。

例えば、先ほど計算した当期純利益3,070億円の数字をそのまま当てはめれば、EPS 271.36円となります。
※既述の通り、実際にはこれよりも低くなるはずです。

投資家の心はあまり分かりませんが、本日7/31時点の終値が2,825円ですから、会社業績予想に比べればだいぶ割安感が出てくるようにも思われます。

少し脱線しましたが、世界を代表する鉄道企業であるJR東日本の動向を、今後も注視したいと思います。

JRE BANKなど触れられなかった点も多くありますが、今回はこのあたりで失礼します。

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Posted by このめ