スコーピオンキャピタル社による「レーザーテック粉飾決算」捏造の虚言レポートについて

※本記事は、日本市場や日本企業に”宣戦布告”をしてきた米空売り機関に対する抗議の意志をもって執筆しています。(ちなみにノンホルダーです。)

スコーピオンキャピタルは、2024年6月5日にレーザーテックに関する調査レポートを公開しました。

日本語版では以下のキャプションがつけられています。

カチカチと秒読みをはじめた時限爆弾。場所は日本。
厖大な詐欺を働いている企業がある。株式市場で売買代金首位の銘柄だ。
オリンパス、東芝ほかの悪名高い粉飾決算事件を想起させる。その内実は——

レポート:https://scorpionreports.s3.us-east-2.amazonaws.com/JpFinal.pdf

このレポートでは、レーザーテックをオリンパスや東芝と並べ「日本の史上最大級の企業不正」として非難し、いくつかの問題点を主張しています。以下、詳しく見ていきます。

スコーピオン・キャピタル社による指摘

主な主張は以下の通りです。

  • 「粉飾決算」:レーザーテックは典型的な不正会計により詐欺を働いている。
  • 「技術的な問題」:レーザーテックの極端紫外線マスク検査装置は光源に致命的な問題を抱えている。
  • 「研究開発費」:レーザーテックに信頼性の⾼い極端紫外線の光源が開発できるとは信じがたい。
  • 「顧客の不満」:レーザーテックの主要な顧客は同社製の装置について不満をもらしており、KLA社に競合品の開発を急ぐよう嘆願している。
  • 「生産拠点への不信」:レーザーテックが横浜市で開発⼯事中であるという「レーザーテック・イノベーション・パーク」は詐欺である。

この他、主要顧客からの聞き取りや、市場の飽和などが挙げられていますが、一面的な意見の切り取りでしかなく、ほとんど意味のない内容なので無視して良いと思います。

上記5点についてもう少し具体的に見ていきます。

「粉飾決算」としてレーザーテックを詐欺呼ばわり

最も大きな論点であり、争点です。
スコーピオン・キャピタル社が粉飾決算を主張する根拠は、以下の通りです。

  1. 棚卸資産高が大きすぎる
  2. 完成品がない
  3. EBIT/売上高が高すぎる
  4. 時価総額に対してフリーキャッシュフローが小規模
  5. 岡林元CEOの突然の辞任

それぞれ見ていきます。(ほぼ資料の抜粋です。)

棚卸資産高が大きすぎる

棚卸資産⾼/売上⾼は全世界の半導体製造装置業界で最⾼⽔準にあり、これが詐欺の証拠である。
具体的には、半導体製造装置分野のトップ5社(ASML、アプライド マテリアルズ、ラムリサーチ、東京エレクトロン、KLA)と⽐較した場合、レーザーテックの棚卸資産⾼が正当なものとは到底思えない。

完成品がない

レーザーテックの10億ドルにも上る棚卸資産⾼は、仕掛品、原材料および貯蔵品が100%を占める。完成品は0%だ。レーザーテックの過去5年間の財務諸表を⾒ると、いずれの期間に関しても完成品の棚卸資産はゼロになっており、信じがたいことだ。

EBIT/売上高が高すぎる

レーザーテックのEBIT/売上⾼は、ACTIS装置を発売した2019年から2023年の間に28%から41%まで急伸した。この数値は、半導体製造装置・材料の分野における売上⾼が10億ドル以上を対象とした45社中で最高のものである。

キャッシュフローが少なすぎる

業界で最⾼⽔準の利益率を開⽰しながらも、キャッシュフローが驚くほど少ない。そして、キャッシュの変換率(営業活動によるキャッシュフロー/純利益)は同業他社よりも低い⽔準にある。

CEOの突然の退任

レーザーテックのCEOを⻑年務めてきた岡林 理は、数週間前に突然退任を表明した。四半期の決算発表に次ぐ発表で、同社の株価は「史上最⾼」に近い⽔準にあった。このような条件が揃った上状況で、⻑年舵取りをしてきたCEOが退任するのは、当該企業の終わりが近いと強く連想される。

また、この他にも監査法人を変えた点などについても触れられています。

レーザーテックの極端紫外線マスク検査装置を不良品扱い

スコーピオン・キャピタル社は、レーザーテックが採⽤したウシオ電機製の極端紫外線光源には、複数の致命的な問題があるとして、以下の問題を主張しています。

  1. 錫の⾶沫による汚染とデブリ。
  2. 不安定性や明滅による誤検知など、検査上の機能不全。
  3. ⾯倒な掃除や整備の負担による、極めて低い稼働率と⽣産性。
  4. 装置が短命なために頻繁な交換が必要。それにともなう⾼いランニングコスト。

1. 錫の飛沫による汚染とデブリ

極端紫外線光源は、液体錫をプラズマ化することで生成されるが、このプロセスにおいて錫の飛沫が発生し、それがデブリとなって装置内に蓄積する。このデブリが光路を汚染し、光源の効率を低下させることが報告されており、「溶けた錫があちこちに跳ねるため、発生するデブリを完全に防ぐことは難しい」​​。

2. 光源の不安定性と誤検知

ウシオ電機製の光源は、放電によるプラズマ生成を利用しているが、この方法では電極の侵食が避けられず、光源が不安定になることがある。この不安定性は、装置の稼働中に光の明滅を引き起こし、誤検知を招く原因となる。

3. 頻繁なメンテナンスと低い稼働率

錫の飛沫による汚染が原因で、装置のメンテナンスが頻繁に必要となり、そのための掃除や整備の負担が大きくなる。この結果、装置の稼働率が低下し、生産性が著しく損なわれる。

4. 短命な装置と高いランニングコスト

装置の寿命が短く、頻繁に交換が必要となることも大きな問題である。これに伴い、ランニングコストが高くなるため、経済的な負担が増大する。これらの問題が、装置の長期的な運用を困難にしているとされている。

研究開発費が少なすぎるという盲言

研究開発費について、同業他社と比較した上で、スコーピオン・キャピタル社は以下のように主張しています。

レーザーテックの年間研究開発費は極度に少額で、過去10年間の平均は、レーザーテック製のACTIS装置1台分の額(価格にして4000万〜6000千万ドル)を下回る。スコーピオン・キャピタルの経験値によると、時価総額の⽐率として捉えた研究開発費が極めて低い場合、不正銘柄やバブル銘柄の兆候が窺える。そのような銘柄の株価を押し上げているのは実際の企業価値でなく、誇⼤なエピソードに因ることが多い。

インテルやTSMCによるレーザーテックへの不満を聞き取り

長いので部分的に抜粋します。

レーザーテック製装置の信頼性が不⼗分なために、2台の装置を準備しなければいけない、と顧客は苦情をいう。
(中略)
KLAの元幹部は、インテルやTSMCなどのメーカーがレーザーテック製の装置を嫌厭しているかとの問いに対して、「その通りです」と答えた。顧客のジレンマは、TSMCのようにペリクルの使⽤を断念し、レーザーテック製を忌避するか、あるいはペリクル(マスク)を使いづづけて、KLAが代替品を発売するまでレーザーテック製の不⼗分な機能で我慢するかにある。

「レーザーテック・イノベーション・パーク」は詐欺と主張

こちらを扱う章立てでは、冒頭に以下のような記述がされています。

レーザーテックが横浜市で開発⼯事中であるという「レーザーテック・イノベーション・パーク」は詐欺だ。この施設は本社に隣接し、⼟地は5倍の⾯積で、2つも「ファブ」があり、研究開発と⽣産の拠点になる、と謳われている。レーザーテックはこの施設が将来、同社の成⻑を牽引すると宣⾔する。この場所を⼿に⼊れるために、同社としては史上最⼤の設備投資を⾏った。スコーピオン・キャピタルの現地調査員が当地を訪問した。約20回の訪問のいずれも、5棟からなるイノベーション・パークにはほとんど⼈影がなく、「常駐」と思われる職員も⾒当たらなかった。

また、ドローン撮影により、クリーンルームは実在しないという主張もなされています。

スコーピオン・キャピタル社の勘違い思い上がり主張への批判

ツッコミどころが多すぎるあまり、書くのも嫌になってきますが、要点だけでも批判していきます。

日本の決算書をまともに読めない米空売り機関

まず第一に認識したいのは、レーザーテックは日本基準で決算を行っている点です。IFRSや米国基準ではありません。
すなわち、資産負債アプローチではなく、収益費用アプローチによって会計が行われています。
このため、スコーピオン・キャピタル社が、少なからず何かしらの勘違いをしている点はあるのではないかと思われます。

棚卸資産高の大きさは問題ない

そもそもレーザーテックは、EUVマスク検査装置というニッチ分野を本業としており、同分野で独占的なシェアを占めています。
また、EUVマスク検査装置は受注から納品まで1年を軽く超えるようなリードタイムですので、半導体市場が拡大するにつれて、棚卸資産が増えていくことには何らの違和感も感じません。

さらに、レポート内では同業他社との棚卸資産/売上高の比較が挙げられていますが、一概に半導体製造装置といってもそれぞれ異なった分野で、時価総額や企業規模も異なりますので、同列に比較して決めつけるのはいかがなものかと思われます。

完成品はなくて当たり前

レーザーテックは顧客の検収をもって完成品としますので、そもそも完成品自体なくて当然です。
作り置きの在庫を売っているのではありません。レーザーテックは受注生産です。

EBIT/売上高の不自然な比較

半導体製造装置・材料の分野における売上⾼が10億ドル以上の対象企業45社中、レーザーテックはEBITマージンが1位であるという主張について、売上高が同規模のディスコが同じEBITマージンで2位につけている点や、競合になり得るKLA社が3位につけている点には触れられていません。
また、先ほども指摘しましたが、企業規模の異なる会社を同列に比較して結論づけるのは、あまり褒められたことではありません。

期末キャッシュフローと時価総額の比較はナンセンス

企業価値評価の理論に従えば、企業価値は決算時点のフリーキャッシュフローではなく、将来フリーキャッシュフローに基づいて算出されます。
レーザーテックの時価総額(株価)急伸は、相応の将来フリーキャッシュフロー増大への期待感の現れであり、マーケットではこれが織り込まれていると考えるべきです。

そもそも、需要の急拡大により受注残が激増し、生産が追いついていないという現状を踏まえていません。
さらに、営業キャッシュフローとフリーキャッシュフローを同じものとして扱っているようなレポート内容である点も、会計への知識の無さを露呈しているように感じられます。

CEO辞任を大きく取り上げる必要性なし

CEOが突然辞任するのは、特別に珍しいことではなく、理由を説明できない事情なども考慮せずに、「⼤型の粉飾決算を相次いで⽬撃してきたスコーピオン・キャピタルの経験に基づいて、これは必然的な発展だ。⽶国の史上最⼤級の不正会計事件では、エンロンのCEOが突然辞任し、株式市場に波紋を広げた。」などと不正会計に結びつけるのは、妄想が過ぎるのではないかと思われます。

不良品装置といいながら競合なしの矛盾

レポート冒頭に以下の記述があります。

レーザーテックの主要な顧客は同社製の装置について、性能、安定性、アップタイムについて不満を持っているため、KLAに競合品の開発を急ぐよう嘆願している。KLAがより優れた装置を発表するのは時間の問題だ。そうなると⼀気に状況が変わり、レーザーテックはゲームオーバーだ。

この記述の真偽がどのようであれ、そもそも競合品がなく、KLA社の装置を待っている時点で、自ら「レーザーテックの装置には間違いなく需要が発生している」と断言しているようなものです。
また、技術進歩の著しい世界で、競合品の開発についてレーザーテックが何も考えていない(正確には次世代光源についてもスコーピオン・キャピタル社は盲言を垂れている)かのような思考をしている点も不自然です。

研究開発費に対する勘違い

レーザーテックは自社で研究開発を完結させるのではなく、積極的に他社技術を採用しています。
レポート内で「5年間の研究開発費総額がたかだか2億5000万ドルだ。そこから230億ドルの時価総額を導き出すのだから、何と神秘的な錬⾦術だろう。」などと述べられていますが、時価総額/研究開発費の5年間の累計額として掲載している表には、レーザーテックの2~3倍の効率で錬金しているキーエンス社が1位に躍り出ています。

顧客の不満は捏造か

すべて定量的でない記述であり、聞き取り調査の内容を連ねているだけです。
このような虚言に膨大なページ数を割く前に、もっと根拠に足る数値データを集めてきてほしいものです。

詐欺師は自分だろと思うほどの新生産拠点に対する主張

ご丁寧にレーザーテック・イノベーション・パークに調査員を約20回派遣し、写真まで撮ってきていますが、いつ撮られたものなのか記載がありません。
人影がないため稼働していないと結論づけていますが、土日であればもちろん人はいません。また、施設内に無断で侵入しているように見受けられますが、これ不法侵入ですよね。

細かい点は省きますが、ドローン空撮したクリーンルームも天井裏のスペースを写したものに過ぎません。レポート内に以下の文章が記載されていますが、「そのさらに下にクリーンルームがあるはずだが」と自ら認識しているにもかかわらず、なぜ天井下と天井裏が同じほどの綺麗さであると考えられるのでしょうか。

ドローンのカメラにより、今なお体育館仕様の外観であるFab 4Aの上⽅の窓越しから、⻄陽が当った状態の建物内部をきれいに捉えることができた。反対側の窓まで⾒通すことができている。内部は広い空間で⾜場のような天井の下に空調⽤のダクトなどの設備が設置されている。そのさらに下にクリーンルームがあるはずだが、レーザーテックのプレゼンテーション⽤の資料に掲載された写真のようなクリーンルームがあるとは、とても想像しがたい。

結論

長文レポートだったため、かなり割愛した点が多いですが、「日本市場と日本企業を舐めすぎ」というのが個人的な結論です。
どのような思考プロセスを経て今回のレポートを出したのか分かりませんが、アクティビストと名乗れば何でも許されると思ったら大間違いです。

日本市場から搾取しようと奮起し、飛躍した論理と虚言により市場を混乱させるのはやめてほしいばかりでなく、スコーピオン・キャピタル社には一刻も早く日本市場から撤退していただきたいです。

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Posted by このめ